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2006年7月
乳房になった男(フィリップ・ロス)
超私的まんが道2≪一冊入魂≫
キラメキ☆銀河町商店街(ふじもとゆうき) .

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 ぼくは一箇の乳房になったのである。
乳房になった男

フィリップ・ロス 大津栄一郎 訳

集英社文庫 絶版

 それは奇妙なぐあいに始まった。

 で、次の段落では、

 それで、それは鼠蹊部にときどき起こる軽い痛みといっしょに、奇妙なぐあいに始まった。

 「ぼく」は三十八歳。文学の教授です。

 ぼくは快調な便通とたのもしい性能力とに恵まれ、スタミナも食欲もあり、姿勢はよく、体格もひきしまった六フィートの男だった。頭髪はまだじゅうぶんに残っていたし、歯は一本も欠けていなかった。

で、「奇妙なぐあいに始まった」それというのは、何なのかというと、

 ぼくは一箇の乳房になったのである。一九七一年二月十八日午前零時から午前四時までの間に《ホルモンの大量流入》《内分泌の病的大変動》あるいは《染色体の雌雄同体的破裂》などとしていろいろに説明されている現象が、ぼくの体のなかで起き、ぼくを人体から独立した一箇の乳房に、夢のなかかダリの絵のなかでしか現われるはずがなさそうな、一箇の乳房に変えてしまったのである。医者たちの話では、ぼくはいま全体としてはフットボールのような、飛行船のような形をした一箇の有機体であると言う。体重は百五十ポンドで(もとは百六十二ポンドあったのだ)、体長は六フィートのままのスポンジまがいの密度のものになっているらしい。心臓血管組織や中枢神経組織は大部分が《異様》な形状に変形しながらもまだ残っているらしいが、それに排泄組織も《変形して原始化》しながら──ぼくはいまチューブで排泄しているのだ──また呼吸組織も体の中央部のちょっとうえにふたのついた臍状のものになって残っているらしいが、こうした人間的特徴の名残りを包みこんでいる組織の基本構造は、哺乳動物の雌の乳房のそれであるというのだ。

 で、乳房になってしまった「ぼく」には目がありません。なくなってしまっています。何も見ることができないんです。

 乳頭の穴にはかすかに口と耳らしいものの痕跡が認められるということから──少なくともぼくは乳頭をとおして言葉を言うことができるし、またかすかながら、自分の周囲で起きている音も聞くことができた──ぼく自身は最初、頭が乳頭になったのだという仮説を立てていた。だが医者たちは、少なくとも今のところは、ちがった仮説を持っているらしい。裏づけとなる証拠がほかにもあるというわけではなさそうなのだが、彼らは乳頭のしわのよったでこぼこした皮膚の部分は──唇の粘液膜も含めた顔のどの部分からも想像できないくらい、明らかに、接触に敏感なために──もとの陰茎亀頭からできていると主張しているのだ。

 で、「ぼく」が自分の「顔」と考えている乳頭を看護婦がオイルをつけて洗い始めると、

 ……ぼくはささやくように言った。
「ああ、いい」


 ぼくはいま彼女の指の一本一本がぼくに触わっているのを感じることができた。それからなにかが、ゆっくりと自由に円を描きながらぼくの上をすべっていた。彼女のやわらかな手のひらだった。
「ああ、ああ」とぼくは叫んだ。完全な射精に達する前の、いまにもとげそうな、あの絶妙な感じがぼくの全身にひろがった。「ああ、とってもいい」それからぼくは抑えきれずにすすり泣き始めた。そして最後には眠ってしまった。


 しかし、「ぼく」がそうした「性的狂喜に、完全にひたること」ができたのは、看護婦とふたりきりになった、他の誰もこの部屋にはいない、と「ぼく」が判断したときに限られます。「ぼく」は始終監視されていると感じています。こんな状況に陥ってしまっても、「ぼく」はふつうの人間であったときのように恥を感じるんですね。

 分ってもらえるだろうか? それは礼儀にかなった正しいことをするという問題ではないのだ。あえて断言するが、ぼくは一箇の乳房としてのエチケットなどに興味はないのだ。むしろそれはぼくがぼく自身でありつづけたいと願うならどうすればよいのかという問題なのだ。

 恋人(クレア)に「ぼく」は乳頭を愛撫させます。しかし、ほんとうはもっと彼女にしてもらいたいことがある。

 ぼく自身もこんなことではいけないとは思っているんですが、でも彼女がここにいると、その間じゅう休みなしに彼女にそうやってもらいたくなるんです。彼女がなにを読んでくれてもちっともありがたくありません──そんなものは聞いちゃいないんです。話だってべつにする必要はないんです。ぼくはただ彼女に強く握りしめられ、吸われ、なめられていたんです。もうこれで十分だということがないんです。彼女がやめるのが耐えられない。わめき、悲鳴をあげて、《もっと、もっと》と言っているんです。


 ああ、ドクター、ぼくがほんとうにしたいことが分りますね? ぼくは彼女をファックしたいんです。ハンモックのこの頭のところに彼女が大きな体でしゃがみこんで、うしろから彼女のあそこにぼくの乳頭をぐっと入れてもらいたいんです。そして上下に動かしつづけてもらいたいんです──ぼくは乳頭で彼女を気ちがいのようにさせたいんです! でもそんなことをちょっとでも言おうものなら、彼女は逃げ出すでしょう。それが恐いんです! 彼女が逃げ出して、二度と帰らないのが恐いんです!


 「ぼく」はなんとか自分を抑制することに成功しますが、今度はこういうことを疑い始めます。つまり、自分は乳房になってしまったのではなく、正気を失っただけではないのか、医者や彼を見舞うひとびともみな、「狂った」といわずに、「乳房になった」といっているだけではないのか?


 この作品を私は一九八五年に読んでいるんですね。久しぶりに読み返しました。それで、今回特に印象に残ったのは、上に引用した部分もそうなんですが、「ぼく」がシェイクスピア作品の上演を収録したレコードを聞くところなんです。

 実は、大学を出て以来ずっとシェイクスピアを読み直すつもりでいたのだが、ほかに用事が多くてついに一度も読み返すことができなかった。いや、取りかかろうとさえしなかった。それでそれは「いつか」取り組んだ方が「いい」と考えていた無数の教養のための勉強のひとつだった。

 俳優ローレンス・オリヴィエの声に「ぼく」はとても惹かれます。

 オリヴィエはたしかに偉大だ。映画スターを恋する女学生のように、ぼくはなんとなく彼を恋してしまった。ぼくがひとりの天才にこれほど完全に全身の注意を捧げたことは、いまだかつていちども、読書のなかでさえ、ないことだった。学生としての、それから教授としてのぼくの文学体験は、必然的に自己意識と言語化の重荷とで汚されてしまっている。ぼくは勉強しているか、教えているかのどちらかだったのだ。だがそれもそのほかの多くのことと同じように過去のものになってしまった。ぼくはいまひたすら耳を傾けているだけなのである。

で、また性的狂喜に戻りますが、

 看護婦とふたりきりになって、初めてぼくは乳頭のオイルマッサージが呼び起こす性的狂喜に、完全にひたることができたのである。そのときの快感はほとんど、甘美なあまり《ほとんど》、耐えがたいほどだった──最後の数週間、クレアとの性交で経験した陶酔に似ていたが、だがいまは自分ではどうすることもできない状態のなかで、完全な暗闇のなかで、そしてぼくにも分らない、なんだか測り知れない、しかもぼくとぼくの快楽のためにだけ存在するらしいある源から、ぼくに襲ってくるだけにむしろいっそう強烈なように思われた。

 どうです? シェイクスピアのレコードに「ぼくはいまひたすら耳を傾けているだけ」というのと「自分ではどうすることもできない状態のなかで、完全な暗闇のなかで」快感に浸るのとは、ある意味でなんだか似ていませんか? しかもそれはともに、「ぼく」がふつうの人間であったときにはかなわなかったことなんですね。





≪一冊入魂≫

第55回 『キラメキ☆銀河町商店街』




商店街って最近減った気がします…
 
 八百屋、魚屋、米屋…様々なお店が居並ぶ商店街。私が幼い頃は普通に見られた光景でしたがコンビニや大型マーケットの過剰なまでの進出により減少、または衰退が目立つようになりました。

 今回紹介するのはそんな商店街の良い雰囲気が伝わってくる作品です。幼馴染6人の織り成す心楽しくなる物語です。こんな商店街が近くにあったら通っちゃいそうです。



キラメキ☆銀河町商店街

ふじもとゆうき

白泉社 1巻まで 390円+税
 まずは簡単な作品紹介から。

 ここは都会のはしっこにある天下の台所―銀河町商店街。大勢の観客?が見守る中アナウンスが鳴り響く。

『銀河町商店街へお越しの皆様!寄ってらっしゃい見てらっしゃい 日曜朝市恒例のショーが始まるよ!赤―コーナー八百幸の―ミケ―――!!青―コーナー魚一の―クロ―――!!双方準備はよろしいか!?ファイッ』

 宙を舞うふたり。このショーは銀河町商店街の朝市の名物で、いつも引き分け。ミケはお駄賃として300円貰っていた。大好きなたいやきを買うためのお金だ。たいやきを買いに行こうとするミケの前にクロがやってくる。彼は幼馴染のひとり。またひと勝負か?という状況になったとき配達で米袋4袋を抱えて米屋がやってくる。彼女は椎葉杏子。やはりミケの幼馴染のひとり。彼女はミケクロに『一番星』に来るように伝える。

 BAR一番星。入るやいなやひとりの女の子に泣きつかれる。彼女は佐藤香澄(焼鳥屋)。彼女も幼馴染のひとり。彼女は今年の銀河町商店街まつりの宣伝部長担当でまつりのパンフレット作成に四苦八苦している。この手伝いとしてミケクロはかりだされたのだった。

 4人がかりで作成をはじめるもののなかなか終わるメドが立たない。そんな中クロが『アイツラ』も呼ぼうと提案する。するとすぐにミケが電話する!電話先はそば処・花。ざるそばひとつ注文する。そしてすぐに出前がやってくる。やってきたのはそば処花の貴公子キュー。彼の名は花咲一休。彼も幼馴染のひとり。

 そしてもうひとりのマモルを呼びに行こうとドアを開けるミケ。するともの凄い手応えが…そこには鼻血を出しながらビールケースを抱えている男の子。彼は白馬守(酒屋)。彼も幼馴染。これで全員揃った。

 中学生になってから全員ともクラスが離れてしまってから全員揃うのが久しぶりになっていた。現在のクラスの友達と遊んでいても楽しいがやはり幼馴染でもっと一緒に遊びたい。そう思っていたミケの目に飛び込んだのは1枚のチラシだった…

 さてそのチラシの内容とは?そしてミケたちは大騒ぎできたのでしょうか?それは皆さんでご確認を。
超私的お気に入りエピソード

第3話

P.143〜202
 小さい頃教えてもらったおまじない。気持ちが下を向いた時は銀河町商店街を端から端までゆっくりゆっくり歩いてごらん。そうするとだんだん元気が沸いてきて歩き終わる頃には、ほら笑顔が戻っているんだよ…

 いつものように大騒ぎの幼馴染6人衆。今日は商店街入口での夏休み出張出店経営中。暑さに負けつつも何とか出店も終えた、夏も終わりに近いある日のことだった。宿題大会に向かいながらアイスを食べ歩きしているミケ、クロ、キュー、マモル。するとミケクロの棒に『あたり』の文字が!そしてあたりを引き換えに駄菓子屋・富士屋に向かうのだった。そんな後ろ姿を見送るキューとマモル。彼らは口を揃えてこういうのだった。

『こりねぇよなーあいつらも。どーせもらえんつーのに』

『そうだよね。富士ばぁだもんね』

 駄菓子屋の前にはふたりの子供。ルーレットで当たりに止まっていると主張するもダメ出しされる。その店主こそ富士ばぁ。彼女が富士屋のルールなのだ。すると突然彼女に襲い掛かってくる者が!それは当たり棒を手にしたミケだった!その隙を突いてアイスを奪取しようとするクロ。だが富士ばぁの手にした箒がクロ目掛けて飛んでくる!

 叫ぶミケ。

『ひどいよ富士ばぁっ。あたしたちはただアイスの当たり棒とりかえに来ただけなのに―っ』

『―まったくあんた達は何度言わせる気だい?当たり棒100本で1本交換してやるって言ってるだろう』

 力ずくで交換しようと思ったとき咳き込む富士ばぁ。心配して駆け寄った途端、ふたりを叩き飛ばす富士ばぁだった…


 この後富士ばぁの身にとあることが起きます。そこで彼ら6人衆が起こした行動とは?そしてその結末は?!それは皆さんでご確認を!

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