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2005年3月
おわりの雪(ユベール・マンガレリ) .
超私的まんが道2≪一冊入魂≫
野球しようぜ!(いわさき正泰) .

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男の影はひとつの黒い夜でした
おわりの雪

ユベール・マンガレリ 田久保麻理 訳

白水社 1600円+税

読みはじめてだんだんに自分のなかが静かになっていく。読み終えてしんと静まりかえり、本をそっと閉じることになる。そうして、この作品に書かれていたこと、また、書かれていなかったことに思いをめぐらす……。そういう作品だと思います。

語り手の少年「ぼく」は両親と三人で暮らしている。父親は病気でずっとベッドにいる。母親は毎晩どこかへ出かけていく。「ぼく」は養老院で、足の不自由な老人たちの腕をとって散歩をさせるアルバイトをしている。「ぼく」はある店でトビの売られているのを見て、どうしてもほしいと思う。「ぼく」はかつてこのトビがどんなふうに空を飛んでいたか、どんなふうにトビ捕りに捕まったかを想像する。そうして、……という話です。

「ぼく」はある日見かけた男をトビ捕りにちがいないとにらんで、後をつけていきますが、その話を父親にするときに、実際にはなかったその男とのやりとり──男がどうやってあのトビを捕まえたかを話してくれた──をあったかのように伝えます。それで、「ぼく」はトビ捕りの話を自分でつくりあげなくてはなりませんでした。

その後何度も「ぼく」は父親にトビ捕りの話をきかせることになります。

うちにつくと、母さんが夕食のしたくをしていた。ぼくはテーブルの上にお金をおき、食事の前に父さんの部屋へ行った。父さんはぼくの顔を見ると、トビ捕りの話をもういっぺん聞かせてくれといった。それで、ぼくは話した。なにもつけくわえず、とばしたりもせず、最初に話したとおりに。
それからもぼくは、父さんにせがまれて、よくトビ捕りの話をした。あのころあまりなんども話したせいだろうか、ぼくはいま、あの話を噴水の前で実際に聞いたように感じることがある。それはとても奇妙な感じなのだ……そう、ぼくはこんなふうに感じている。あのころぼくが語った話は「ほんとうの話」の影とか鏡像のようなものだった、つまり、「ほんとうの話」とよく似たなにかだった、と。トビ捕りの話はいまでもよく思いだす。でも、いまはもう、父さんがその話を信じていたのかどうかさえわからない。



またべつのときには、

ふいに雨がやんだ。トビ捕りの話を聞きたい? とぼくはたずねた。「ああ、聞かせてほしいが、きょうはなんだか疲れてるんだ。最後まで聞かないうちに眠っちまうかもしれないな」父さんの返事をきくと、ぼくはいった。なんだ、それなら前にもあったよ、父さんはいちど途中でねちゃったことがあったんだ、でも、かまわず最後まで話したんだよ。
「じゃあ、こまかいところもとばすなよ」
「うん、とばさないよ」
「父さんが眠っちまってもな」
「父さんが眠っても、こまかいところをとばさない」
「よし、はじめろ」
父さんは眠らなかった。あたりが暗くなり、また雨がふりはじめても、最後までトビの話を聞いていた。そして話が終わると、「ひとつもとばさなかったな」といった。そのころはもう、すっかり話を憶えていたのだ。


あるときなどは、

ある晩、父さんとぼくのもとに、嵐がやってきた。というか、やってきたような気がした。ふたりで寝室にひびく雨の音と風の音を聞いていたときに。でも、ほんとうは気がしたんじゃなくて、ぼくたちは、これは嵐なんだと思いたかったのかもしれない。ともかく、嵐がやってくると、まもなく父さんがちょっと椅子をおりて窓際に行ってくれといった。ぼくは、いわれたとおり、窓辺に行った。するとこんどはトビ捕りの話をしてくれといわれた。さっそく話をはじめると、父さんはすぐに話をさえぎり、大きな声でいった。
「なにも聞こえないぞ!」
ぼくはもういちどやってみた。嵐の音にも負けないくらい声をはりあげて。出だしだけちょっと話すといったんやめて、父さんにたずねた。
「いまのは?」
「いいぞ」
「じゃあ、最初からやりなおすからね。こんどはやめないよ」


そのときの話は

それはぼくが父さんに聞かせた話のなかでも、いちばんすごいトビ捕りになった。ぼくの声で、部屋中の空気が振動するようだった。男がトビを捕まえようと格闘する場面は、声の迫力で異様にもりあがった。逃げようとしたトビが、必死に翼をひろげる場面もだ。


やがて、

ぼくはベッドのわきの暗がりにもどった。でも、その暗がりはすこしもこわくなかった。父さんがにやりと笑った。歯が生き生きとしてみえた。父さんは首をゆすって、でかしたな、というしぐさをした。ぼくの話を気に入ってくれたのだ。父さんはまるで、男がトビを捕まえることができてうれしいよといっているみたいだった。


それでも「ぼく」はつい父親にあたってしまうことがあります。「ぼく」は年齢以上のものを我慢して背負っているようなところがあるんです。それがつい表に出てしまうことがある。しかし、語り手である「ぼく」はそのような解釈を語りにもちこみません。「ぼく」は、これはこういうことだというふうに整理したり、まとめたりはしないんですね。
だから、この作品には書かれていないことが実にたくさんあります。

この作品では、作品内のことばでたとえば善悪を問うということがありません。描かれるのはひたすら状況のみです。「ぼく」は、母の外出も、父の無力も、自分の犬猫殺しもただ事実として扱います。それについての自分自身の判断を入れ込んだりしないんです。しかたがないともいわない。「ぼく」がなにをしたか、そのことについて誰になんといったか、相手がどういう反応を示したかということは書かれていますが、そこにはいわば表情といったものがあるだけで、その背後にあるものは明かされないままなんです。それがこの作品のすごいところですね。

繰り返しますが、書かれていなかったことに思いをめぐらす……。そういう作品だと思います。






≪一冊入魂≫

第39回 『野球しようぜ!』




球春到来!
 
 って以前も書いた気がするこのフレーズ…(笑)巷ではプロ野球もキャンプを終え、オープン戦が始まりました。そして海の向こうのメジャーリーグからもキャンプの話題が届き始めました。間もなく選抜も始まりますし、スポーツ観戦(もっぱらTVでですが)好きな私としてはまた睡眠時間が減りそうで怖いです。

 ということで今回紹介するのは全く『野球』というスポーツを知らなかった男の子が或る時出会いそしてのめり込んでいく物語。今までの野球マンガとはちょっと違う展開をしていきそうなムード満載のこの作品!まだ1巻しか出ていません。野球・スポーツマンガ好きの方、要チェックですよ!



野球しようぜ!

いわさき正泰

秋田書店 1巻まで 390円+税
 まずは簡単な作品紹介から。

『天 私のかわいい息子。純粋に真っすぐ育ちなさい。自分だけの強さと道を持った人間に。そして願わくは――お父さんのような立派な野球選手に…』

 ……『天、天!』女性の叫ぶ声。そんな声を他所に天は裏山にいた。双眼鏡で覗く向こうには鳥の巣の中の雛。襲いかかろうとするカラス!そのとき石つぶてがカラスを襲う!それは天が投げた石だった。雛を守ろうとしたためだがカラスにも気を遣い、自分の食べていたパンの耳を分け与える。

 とそのとき先ほどの女性の声が近づいてくる。天を怒鳴りつけしかる彼女。彼女は天の継母。戻ってきた食卓では素行の悪い(?)天の夕食は抜き。これもいつものことのようだ。TVでは野球中継が始まろうとする。継母がTVを消すようにいう。彼女は大の野球嫌い。その光景を見た天の表情はちょっと曇り気味である…

 彼の名は小鳥遊天。両親を亡くし継母の家でやっかいになっている。小さい頃の母との約束で野球の道へと進むことを望んでいたが野球嫌いの継母のせいで一度も見たことがないのだ。そんな天も高校生になる。入学初日の朝、早く学校に着いてしまった天は学校を探索する。そのときグランドから聞こえてきた金属音。グランドのほうへ向かった天の目に飛び込んできたのは大勢の人間が『打つ、捕る、投げる』を繰り返す競技だったのだ…

 普通の野球マンガですと初めて野球を始めるという場合でも野球とは何かくらいは知っているのですが、この主人公・小鳥遊天の場合、野球というものを見たことがないのでグラウンドで見たスポーツが野球ということすら判りません。この辺の設定は結構新鮮で、この先天はどうなってしまうのだろうという期待感が膨らみます。で実際どうなるのでしょうか?そのエピソードのひとつを紹介します…
超私的お気に入りエピソード

運命の出会い

P.5〜68
 グラウンドで見た競技を真似する天。真似しただけで楽しくて頭の中が真っ白になってしまう。何だろうと疑問に思う天の後ろから女性の語りかける声が聞こえる。振り返ったところにひとりの女子高生。

 彼女は野球部のマネージャー・鷲足翔子。転がってきたボールを天に投げ返してみるようにいう。左手でボールをつかみ、そして投げ返したボールは一同の予想を越えたものだった!外野の一番奥から、中継地点に立っているピッチャーを飛び越えキャッチャーまで届いてしまったのだ。

 驚きを隠せない一同。その中から天に歩み寄ってきた一人の部員。彼はキャプテンの緑川守。もう一度投げてみるようにいわれ大きく振りかぶる天。今度は右手!そのボールは先ほどのよりもコントロール・球威ともに十分に勝るものだった…

 放課後にはまたプレイできると喜ぶ天ですが、彼の義理の兄の荷物持ちをするように約束していたのを思い出し仕方なくいったん兄の下へと行きます。ですがもう一度あのボールを投げる感触に触れたく思い再びグラウンドに戻ってきます。もう練習は終わっていると思っていた天ですがその予想に反して練習はまだ続いていました。そして再び練習に参加する天でした…

 監督に紹介される天。野球歴を問われるが今日初めてボールを触ったことを告げると一同の驚きは更に増していく。服を脱ぐように指示する監督。天の上半身を見て監督はあることを確信する。

 そのとき時計を見た天は慌てだす。門限まであと僅かなのだ。それを聞いた監督は明日の朝に校庭にくるように指示する。慌てて家に帰る天。あとに残った部員は監督から全く無駄な肉のない高密度の圧縮ゴムのような筋肉を持つ天の体の凄さを聞かされるのだった…

 帰宅した天は今日も継母に遅いと怒鳴られ食事抜きになってしまう。しかも家でなく外で寝ろとまでいわれる。だがいつものことなので彼はあまり凹んでいない。そしていつもの場所へと足を運ぶ。そこは裏山の洞穴。そこには一枚のゴザと母親の肖像画があるだけ。だが彼には家よりもゆっくりできる場所でもあった。

 明日の約束の時間に遅れないようにと眠りにつこうとする天…だが明日が楽しみで全然寝ることができない。そしてもらったボールを壁にぶつけては捕りぶつけては捕りをひたすら繰り返す。そしてこう呟くのだった。

『母様。僕……「野球選手になれ」って遺言は守れなかったけど自分の道を見つけたんだ!!』

 って野球選手になってるよ〜!って突っ込みたくなりますが、とにもかくにも彼の『打つ、捕る、投げる』人生が始まります。このあとグラウンドで待っていたものとは?そして彼の人生に生じたもの凄い変化とは?それは皆さんでご確認を!

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