| 2004年6月 | |
| 西瓜王(ダニエル・ウォレス) | フォー・レターズ・オブ・ラブ(ニール・ウィリアムズ) |
| 北壁の死闘(ボブ・ラングレー) | 7歳からの犬の本 |
| サッカーユニフォームの殿堂(名越卓也) | おかしなお菓子大集合(グループ・コロンブス編) |
| たばこバカ本 | |
| 超私的まんが道2≪一冊入魂≫ | |
| めぐる架空亭(草川為) | . |
| 深みにはまっちまった。惚れたわけじゃあない。ミス・ライダーに、惚れたわけじゃあない。ただ、小さいころ、ときどき出かけて、すわってぼんやりする竹林があって──人は知らない、おらだけの場所。秘密の部屋。木漏れ日が射しこんで、暑い日でも、そこだけはいつも、ひんやりと涼しい。気持ちがいい。ただ、そこにいるだけで。 そんな感じだったですよ、ミス・ライダーといると。 |
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ダニエル・ウォレス 小梨直 訳 河出書房新社 1600円+税 |
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| 人びとは話してくれた。ぼくは耳をかたむけた。驚いて、その場に立ちつくすしかなかった。ひとりひとりに物語があって、それぞれ少しずつどこかちがっていて、でもこれだけは話し手が誰であろうと同じ。それは「スイカの王様」の物語だった。言葉が生まれ、書き記されるようになる以前からある物語。町ができる前、人々が来て町を建てる前、先住民のインディアンたちが住みはじめるより、さらに以前に生まれた話。 『西瓜王』=The Watermelon King。もうこのタイトルだけで惹かれました。 アメリカはアラバマの「ちっぽけな町アシュランド」。このさびれてしまった町に、18歳の男の子がやって来ます。まだ童貞の彼の名はトーマス・ライダー。彼はひとりでこの町に来たんですが、実は18年ぶりに戻ってきたというのが正しい。18年前、彼はこの町で生まれたんです。そうして、18年前、彼の母ルーシー・ライダーはこの町で死んでいます。また、18年前からのことです、この町がすたれはじめたのは。 いったい18年前にこの町でなにがあったのか? トーマスくんは町のひとたちに18年前の出来事をきいてまわります。 あの世でなにかあったとしてもね。向こうでも、きっと人気者だわよ、あなたのお母さん。いつも注目の的だった。たまにいるのよね、まるで磁石みたいな人が。 美人だったわよ、あなたのお母さん。完璧に光り輝いていた。 いい子だったわよ、あなたのお母さん。みんなと同じようには、なかなか考えられないの、わたし。あんなことがあったあとでもね。だって、悪い人じゃなかったもの。悪い人だなんて、わたしにはぜんぜん思えない。でも男にはそう見えてしまうのね、結局のところ、女を武器にする女はみんな……。 だから、そう。彼女に恋をした。ほかにも彼女を好きになった男を五十人は知っている。みんなが恋したのは、彼女にみなぎる生気、いや、考えこむときにそっとチャームブレスレットに触れる、その仕草だったかもしれない。驚いたよ、みんな驚いたと思うね──あっという間に町に溶けこんでしまったのだから。いつの間にか必要不可欠な存在となった。彼女があらわれるまでは、気づきもしなかった空白を、埋めていた。 死んだら恋しくなるものは? なに? 太陽の光や、パンの香りや──あとは──コーヒーかしら? そうよ。リストがつくれる。で、実際にやってみたのよ。生きていたい理由、自分にとって特別なものを、書き出してみた。すると、ルーシー・ライダー、彼女も入っていた。アシュランドで、いろんな人のリストに選ばれる存在だったと思うわ、昔の彼女なら。 いきなりこんな話をして申し訳ないけどね、あんたの母親はとんでもない売女だったよ。みたい、じゃない、売女そのものなんだから、綴りの最初は大文字だね、メモとるんだったら。 どこからともなくあらわれて、気まぐれにちょっと町に住みはじめたたけのくせに。あたしたちの生活に口を出すなんて、どういうつもりだろうね。おまけに、あるときなんか、真っ昼間から黒人を家に呼んで、ポーチで人目も気にせずいっしょにお昼を食べながら、古くからの知り合いみたいに楽しそうに笑い合ってたんだ、知ってるかい? みんなして眼を疑ったよ。町の半分がその光景をひと眼見るために、わざわざ車で家の前を通りすぎた。 こういう話をトーマスくんはみんなからきかされます。 黒人のヴィンセント・ニュービーの話が特に印象的です。彼はこう思っていました。 おらは、あの人のそばにいたい。ただそばに、あの庭で、話しても、話さなくってもいい、窓からあの人がなにかしているのを見るんでも、レモネードを飲むんでも、なんでもいい。 そうして、こんなふうに結びます。 よく考えて、こう思いましたですよ。深みにはまっちまった。惚れたわけじゃあない。ミス・ライダーに、惚れたわけじゃあない。ただ、小さいころ、ときどき出かけて、すわってぼんやりする竹林があって──人は知らない、おらだけの場所。秘密の部屋。木漏れ日が射しこんで、暑い日でも、そこだけはいつも、ひんやりと涼しい。気持ちがいい。ただ、そこにいるだけで。 そんな感じだったですよ、ミス・ライダーといると。 トーマスくんのお母さんルーシー・ライダーがどんなに魅力的な女性だったか、それだけにどんなに敵もつくることになってしまったか。読みながらそういうことがわかってきます。その一方で、「西瓜王」の話も了解されていくんですけれど。 特に大きくて美味しいアシュランド産のスイカは世界じゅうで有名になり、比類なきスイカとなり、このささやかな土地はなにか神秘的なかたちで神様に祝福されているのではないかと考えられるようになった。普遍的な神様ではなく、ひょっとしたらこの土地の、われわれの神様に。スイカはその神様からの贈りもの、スイカを敬うことは神を敬うことと考えられ、いつのころからか、人びとの手による年に一度の収穫祭が欠かされることはなくなった。 というわけで、町の将来とスイカの将来が重なり合い、われわれの頭のなかでいつしかスイカの種は子種と同じもの、将来農夫に育つ男の子、やがてその農夫の世話を焼くことになる女の子の種となんら変わりないものと見なされるようになった。その男や女たちが、長い年月をかけて土地を耕してきたいまは亡き人びとのあとを、いずれは継ぐことになるのだから。そうとも、命を宿した女のどんどんふくらんでゆく腹が、ほかのいったいなにに喩えられるというのだろう。 女を知らない男が町に災いをもたらすと考えられるようになったのは、そんな理由からだった。成人してもまだ女を知らない男は、町の繁栄を損ないかねないとして、毎年ひとり選ばれ、道を正されることになった。いわば生贄のようなもの。純潔を捧げる生贄だった。 けれども純潔が捧げられることなく終われば、天恵は訪れない。作物は灼熱の太陽のもとひからびて、われわれは、なにひとつ手にすることができない。 そして18年前の収穫祭はどうだったのか? そしていまこの町に天恵は訪れることになるのか? 要は、きみのおふくろさんがアシュランドにあらわれるまで、毎年祭はおこなわれていて、スイカもたくさん採れたのに、それががらりと変わってしまったという事実だよ。 きみのおふくろさんのせいで祭が中止されたとき、町は大騒ぎになった。 いや、あの結末は、悲惨だった。おふくろさんの最期は。 ……とほとんど引用で埋め尽くしてきていますが、どうかこれでこの本をすっかり読んだ気になってしまわないでくださいね。これらの引用なんかじゃ、とうていこの作品の豊かさはわかりませんよ。 それにしても、≪驚いたよ、みんな驚いたと思うね──あっという間に町に溶けこんでしまったのだから。いつの間にか必要不可欠な存在となった。彼女があらわれるまでは、気づきもしなかった空白を、埋めていた。≫という先の引用なんですが、ここでの「彼女」を私はべつのことばに置き換えることができると思うんです。 たとえば いつの間にか必要不可欠な存在となった。『カンバセイション・ピース』があらわれるまでは、気づきもしなかった空白を、埋めていた。 あるいは、 いつの間にか必要不可欠な存在となった。『カラマーゾフの兄弟』があらわれるまでは、気づきもしなかった空白を、埋めていた。 いつの間にか必要不可欠な存在となった。『死に至る病』があらわれるまでは、気づきもしなかった空白を、埋めていた。 などなど。 どうですか。これはこういうことでもある。 死んだら恋しくなるものは? なに? 太陽の光や、パンの香りや──あとは──コーヒーかしら? そうよ。リストがつくれる。で、実際にやってみたのよ。生きていたい理由、自分にとって特別なものを、書き出してみた。すると、『タイタンの妖女』、この本も入っていた。 ただ、小さいころ、ときどき出かけて、すわってぼんやりする竹林があって──人は知らない、おらだけの場所。秘密の部屋。木漏れ日が射しこんで、暑い日でも、そこだけはいつも、ひんやりと涼しい。気持ちがいい。ただ、そこにいるだけで。 そんな感じだったですよ、『フランスの遺言書』を読んでいると。 そんなことも考えました。もちろん、そんなことを考えなくたって、ルーシー・ライダーはとても素敵な女性なんですけれど。 |
| あまり話さないほうがいいこともある。父さんならわかってくれるだろう。ときとして、言葉は感情を薄っぺらなものに変え、ピンを突き刺され二度と空を舞うことのなくなった蝶のようにしてしまう。標本にされてしまったら、絹のように空気を彩っていたその美しい姿を見ることはできない。想像したほうがいいこともあるんだ。 | |
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新装版 ニール・ウィリアムズ 石川園枝 訳 アーティストハウス 1400円+税 |
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| この世に偶然なんてものはない。父さんは少なからずそう確信しているようだった。僕には無計画で行きあたりばったりに生きているようにしか思えなかったけれど、父さんは大真面目だった。神を信じるなら、偶然は信じないことだ、父さんはぼくにそう言った。 自然界に偶然なんていうものはない…… なぜだ? そうなるように運命づけられているからだ。そんなふうに物事は成り立っている。物事の成り立ちが理解できれば、なにも心配することはない、と父さんは言った。正しいものが正しいのだ。すべてのものにはそれぞれの住むべき場所があり、すべてがどこかに収まるように神様がお創りになられた。 ちょっと村上春樹を思い浮かべるかもしれません。彼の『海辺のカフカ』で主人公の少年が聴いていたあるCDの1曲めは「Everything in its right place」(Radiohead)というのでしたし、あの小説の全体はなにかを正しい位置に戻してやるという話でもありました。 さて、もう一度『フォー・レターズ・オブ・ラブ』です。新装版が出ましたから、この機会に余計なことをしゃべろうというわけです。前回この作品について書いたのは 「それ、読みたい!2002年2月」 なので、はじめにそちらをまた読んでいただきたいと思います。で、実はそちらだけで十分なんです。今回は新装記念のおまけみたいなものです。 もう「文体」についてはずいぶん繰り返してきましたけれど、私はこう考えています。自分のことばを常に疑わないようなひとの作品は──ほんとはそれじゃ作品とはいえないんですが──だめです。自分の思いをいつも疑って考えつづけているひとでなければよい作品はできない。彼のそういう姿勢が「文体」をつくります。何を語り、何を語らないか・何を語ることができ、何を語ることができないか≠ニどう語るか≠フ接する場所・そこでのせめぎあい・拮抗が「文体」で、これが成功しているかどうかが作品のよしあしを決める、といまのところ私は考えていますが、この『フォー・レターズ・オブ・ラブ』はその成功例といえます。 そこで、たとえば作品の冒頭、 ぼくが十二歳のときに、父さんは初めて神様の声を聞いた。神様はあまり多くを語らなかった。父さんに画家になるようにとだけ言うと神様は、天使に囲まれた席に戻って、さて、どうなることやらと、灰色の町を覆う雲の上から高みの見物を決めたのだった。 これは、もちろん書いてあることばをそのまま受けとってもいいし、そう受けとりたいひともいることでしょうが、 「こうするしかないんだ」父さんは頭を上げた。父さんのひとことは突然空から子供の死体が降ってきたような衝撃をぼくたち家族に与え、気味の悪い静寂が次々と押し寄せてきた。そのあと、父さんはかろうじて聞き取れるような声で──いや、それは街灯の明かりがカーテンの裾を金色に染めるころ、お祈りをすませて薄暗いベッドに入ったぼくが勝手に思い込んでいただけにすぎない、とあとになって言い聞かせたのだが──こう言った。「こうするしかないんだ。神様がそうしろとおっしゃったんだ」 注意してほしいのは、「いや、それは街灯の明かりがカーテンの裾を金色に染めるころ、お祈りをすませて薄暗いベッドに入ったぼくが勝手に思い込んでいただけにすぎない、とあとになって言い聞かせたのだが」という留保です。 もっとずいぶんあとでは、 部屋はいまにも爆発しそうだった。息が詰まりそうな重苦しい沈黙、火傷したように熱い口のなか、パイのにおいやカウンターにいる女の子がすべていっしょになって、ぼくの頭をずきずきさせた。なにが来たのか、ぼくにはすぐわかった。すでに一度ぼくの家族を崩壊させた不幸をもたらす言葉が聞こえてきた。父さんが口を開く前から、答えはわかっていた。ぼくは父さんに答えてほしくなかった。でも、父さんは答えた。しんと静まり返った夏の夕方の狭いカフェで、父さんがキッチンで母さんに言ったのと同じことを言うのが聞こえた。 「わたしは絵を描かなければならない。それがわたしに与えられた使命なんだ。おまえに理解してもらおうとは思わない。でも、神様がそれを望んでおられるんだ」父さんはそう言って、また口を閉じた。カウンターの女の子が父さんの話を聞いていた。彼女はぷっと吹き出しそうになり、父さんが振り向くと、忙しそうにカウンターを拭いているふりをした。完全にいかれているわ、と彼女は思った。あの人が出ていったら、友だちに電話して教えてあげなくちゃ。「信じられないでしょう? 神様がそれを望んでおられるんだ、なんて言ったのよ。嘘みたいだけど、本当の話よ」狂人を無事に店から追い出したあと、彼女は誰もいないテーブルと鍵をかけたドアを見ながら、受話器に向かってくすくす笑うだろう。 たしかにここではお父さんがはっきりと「ぼく」にそういったことになっているように読めますよね。でも、「ぼく」は「カウンターの女の子」の反応を書き記すことを忘れていません。それに、ここでは「父さんがキッチンで母さんに言ったのと同じことを言うのが聞こえた」という方が大事であるはずです。もちろん、ここの場面から逆に、かつてもやっぱりお父さんは神様がそうするようにいったというわけだ、そして、「カウンターの女の子」はその証人であるはずだ、というふうに読むひともいるでしょうけれど。 そんなことをいいだせば、「ぼく」が語り手となっている部分はいったいどういうふうにして書かれたものなのか(訳者の石川さんはあとがきで実はこのへんのことをもっと書きたいのを我慢しているようです)、などとどんどん深みにはまっていかなくてはならなくなるので、もうやめますが、私は「そんな夢のない解釈をするな」と文句をいわれたくてこれを書いているのではなく、実はその逆なんです。 「人生は謎だ、人間の理解を超えている。そう思えば、少しは楽になれる」父さんは間をおいて、次にこう言った。「そうでも思わなければ、生きていけない」 そして、「ぼく」は普通に人間的な常識で測れば「なんなんだこれは、どうしてこんなことになるんだ」でしかない現実をべつの秩序に組み入れていくんです。あわせて、他の章の語り手も……。 まともにお父さんが神様の声を聞いたということで書きはじめると、ぷっと吹き出されることになるのを明らかに承知したうえで、あえて、作者はそう書きはじめたんです。ほんとうにお父さんが神様の声を聞くことなんてないよね、うん、あれはきっと空耳だよ、というふりをしながら、神様を持ち出してくる。それでも持ち出したわけです。持ち出してくることで、神様を居座らせてしまう。そうして読者をだんだんに馴らしていきながら、この物語世界へと導いていくんです。偶然のない、すべてが正しい位置におさまるように定められている世界。それはものすごく厳しい世界です。そうして、誰かの口から白い鳥が出てきてしまうようなところまで進んでいく。この作者の語りは外見の簡明さとは裏腹に相当に高度なものです。しかし、そんな裏をまったく感じることも考えることもなく、単純に語られていることをそのまま読んでも十分に読者を惹きつけるようにもなっていて、それがさらにすごいところです。また、これもいまの話に重なりますが、「語る」と同時に「語らない」ことを彼はよく知っています。どこで攻め、どこで引くかということです。このとき「語らない」=「引く」は後退ではなく、単純な「攻め」よりもはるかに大きい効果をあげることにもなります。 なにより「LOVE」ですからね。「LOVEという四つの文字」、四通の愛の手紙をタイトルにもしてしまい、それを語るんですから。まともに話せば、ぷっと吹き出されてもしかたのないようなものなんですから。だからこの作者ニール・ウィリアムズはすごいというんです。しかもデビュー小説。 …………………… 蛇足ながら、べつの作者にはこういう書きかたの作品がありました。 鐘の音、都の空に、全都の空に、響きにあふれたなかぞらに、鳴りひびく巨波のような鐘の音。鐘、鐘、無数の鐘が振動し、揺れ動き、大浪のようにうねり、鐘楼のなか、釣り鐘梁に吊られて大きく揺れ動き、バビロンの言語の混乱もさながら、入り乱れては百千の声で鳴りひびく。…… こうしてローマのいたるところの鐘という鐘が鳴って、大音響となっているんですが、ここで語り手は問います。「誰が鐘を鳴らしているのか」 誰が鐘を鳴らしているのか。鐘楼守ではない。彼らは、こうも法外に鐘が鳴るもので、みな人と同じく街上に走り出ている。納得してもらいたいものだが、鐘楼は空で誰もいないのである。綱はだらりと垂れている、それなのに鐘が大波のようにうねり、…… それでは誰がローマの鐘を鳴らしているのか。──物語の精神である。──いったい物語の精神はいたるところに在り得るものなのか、この所におよび至る所に、たとえば、ヴェラブロオの聖ゲオルク寺院の塔の上に在ると同時に、かなた、忌まわしいゲディアナア神殿の円柱を保存している聖サヴィーナ寺のなかにも在り得るものなのか。一時に百の聖場に在り得るものなのか。──もちろんのこと、物語の精神はそれをなし得るのである。それは空気もさながらで、形体がなく、遍在するものであって、此処と彼処という区別には従わない。「ありとあらゆる鐘が鳴った」といっているのは、物語の精神であり、従って、鐘を鳴らしているのは物語の精神なのである。 以上は『選ばれた人』(トーマス・マン 佐藤晃一訳)でありました。この主人公は岩の上に鎖で縛られて17年のうちにはりねずみくらいの大きさの生物に変化したりするんです。 |
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ボブ・ラングレー 海津正彦 訳 創元推理文庫 820円+税 |
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| 昭和堂はビルの中にある本屋さんです。駅前にあるビルですのでガラスが多用されています。ですので、当然定期的に清掃業者に依頼して、ガラスや壁面をきれいにしてもらっています。高いところからザイルでもって器用に作業するスタッフの中にも、この本に出てくるようなクライマーがいるのかもしれません。 ある夏のことです。スイス、西アルプスのアイガー北壁で地元の山岳ガイドが奇妙な遺体を発見します。氷漬けで見つけられた彼の名は“エーリッヒ・シュペングラー”、この小説の主人公です。そう、主人公は冒頭でいきなり死体として登場してしまうのです。そして物語は彼の生前に巻き戻ります。シュペングラーは第二次大戦中のドイツ兵、つまりその頃の世界の悪役です。それでも戦争前は名の知られた登山家でした。しかし、ある事故をきっかけに彼は山から離れてしまいます。軍に入隊後は、山とは縁のない機甲師団で軍曹の地位に就いていました。ところが、突然親衛隊(SS)に呼び出され、ある特殊任務を遂行する為の部隊に強制的に配属させられます。 その任務とは、アメリカが開発を進めている新型爆弾(原爆)の主任研究員である“ラッサー博士”を誘拐するというものでした。ドイツも爆弾の研究に着手していましたが、アメリカの方が何歩かリードしている状態で、ジリ貧の戦局を打開する為にもドイツ軍はなんとしてでもラッサー博士を必要としていたのです。ところが、そのラッサー博士がいる地は永世中立国であるはずのスイス。何故スイスでアメリカの研究者が軍事研究を? その辺は本を読んでいただくとしましょう。 シュペングラーはまず訓練キャンプに入ります。そこには、彼の様に突然部隊を転属させられた何人かのクライマーと、彼らをしごく教官役の嫌〜な奴がいます。(この嫌な奴:ヘンケがちょっと重要!)その訓練キャンプでいろいろな事があるのですが、このHPを見て、この本を読んでくれるかもしれない方の為に正直に言いますと、このあたりまでたいして面白くはないんです。 この物語が面白くなるのは、作戦が決行されてから。博士を誘拐する過程で、様々なトラブルがあり、退路を塞がれたシュペングラー達は、脱出手段として、山を下るのではなく、登ることを選びます。彼らの眼前にそびえるのは「アイガー北壁」。これまで何人ものクライマーを飲み込み、拒絶してきた地です。途中、1人、また1人と仲間を失い、自身も大ケガを負いながらも山と向かい合ううちに、シュペングラーは戦争の愚かさを感じてゆきます。そんな事より、今、目の前にある壁との戦いに集中するのです。彼がハーケンを打ち込み、アイゼンを踏みしめて山を登るシーンは感動モノです。しかし私達は知っています。物語の冒頭にあった様に彼はこの山で死んでしまうのです。それでも登り続ける彼にエールを送らずにはいられません。 さて、この文章をここまで読んでくださった方。「要はこの人、山に登って死んじゃうんでしょ。しかもそれが最初に書かれてて、結末知ってたらつまらないじゃん」なんて早とちりしないで下さい。確かに死んでしまいますが、まだホンの少し物語は続きます。それはたった十数ページ。でもそこにこの物語の本当のエンディングが描かれています。山岳小説としては以前紹介した『神々の山嶺』(夢枕獏 集英社)の方が私は好きですが、この作品もなかなかに骨太で気に入りました。 |
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7歳からの犬の本 シニア犬の最新医療とケアがわかる 昭文社 1200円+税 |
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| 7歳からの犬の本 昭文社(本体1200円) ずっと犬がいる暮らし『7歳からの犬の本』に込めた思い。 今、あなたの暮らしに犬がいますか。 これまでのあなたの暮らしにも、ずっと犬がいましたか。 彼(彼女)を、初めて家族に迎え入れた日を覚えていますか。 どんな目をしていましたか。 名前は誰がつけましたか。 初めての夜は誰が一緒に寝ましたか。 専用のお皿を決めてあげるとき、それはピカピカの新品でしたか。 それとも、家族の誰かのお気に入り、 だけど、ちょっとだけ欠けてしまったおちゃわんでしたか。 大好きなお散歩のコースは、きっといくつかあって、 もうそろそろの時間には、椅子から立ち上がっただけで、 切れそうなほどシッポを振っていたあの頃のこと、 よく思い出しますか。 眠かったり寒かったり、他のことに忙しかったりして、 お散歩どころか、遊んであげることもしなくなって、 一日に、名前すら呼んであげなかったなんて時間もありましたか。 そんな時期も、あなたの暮らしの中で、 彼らはあなたを愛しつづけ、そこにいるだけでうれしいと、 全身で伝えていたはずです。 今あなたの傍らにいる彼(彼女)が、 ほんの少し、歩き方が変わってきていると感じ、 このごろ、ソファに飛び乗る回数が減っているなと気づき、 「そういえば、もう・・・」と彼らの年齢を改めて数えるとき。 例えば今、大きな病気と闘いながら、 獣医さん通いの毎日で、いろいろを思い出すほどに愛しくなるとき。 でき得ることのすべてをしてあげようと、 もう、何年も介護をしているとき。 そして、ありったけの愛情をそそいで、それでも 彼らからもらった、何の計算もない愛にはかなわなかったと看取るとき。 あなたの暮らしには、あなたと命をともにする犬がいます。 人生をともに暮らす家族がいます。 7歳からの彼らこそ、もっと健康に。もっと幸せに。 これが、私たちの思いです。 我が家にも4歳を頭に4頭の愛しい彼(彼女)がいます。「ついこの間まで小さかったのに・・・」と思う程月日が経つのは早く、あっというまの4年間でした。おかげさまで健康に育っていますが、体調を崩したり、獣医さんにお世話になることもそれなりにありました。まだシニア犬ではありませんが、数年後彼(彼女)らが歳を重ね、どのような体の変化・行動の変化がおきるのか、最近少し不安を感じています。犬と一緒に生活している方は同じ思いが少なからずあると思います。この本は長年一緒に暮らしてきた愛犬が高齢といわれる年齢にさしかかったとき、どのようなケアをすればいいのかが詳しくわかりやすく書かれています。食事管理からマッサージなどの癒し方、バリアフリー対策、介護の仕方など、家族の接し方、心構えも含めて総合的に紹介したシニアドッグの健康管理本です。現在シニア犬のいる方もこれからという方もぜひ読んでいただきたいと思います。そして彼(彼女)が健康で少しでも長生きできるよう勉強・努力しましょう。 ○ずっと犬がいる暮らし ○7歳からの体の変化・行動の変化 ○シニア犬の体をいたわる健康ごはん ○愛犬と一緒に楽しむお散歩とのんびり旅 ○犬だってバリアフリーが暮らしやすい ○7歳からのアンチエイジング・ケア ○シニアドッグのための獣医療最前線 知っておきたい獣医さんのこと・病気のこと ○介護が必要になったとき あなたがしてあげられること ○楽しかったよ。ありがとう・・・。 最後を看取る |
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WORLD SOCCER MUSEUM 名越卓也 東邦出版 1300円+税 |
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| 2002年のワールドカップ以降、サッカーのユニフォームは夏のTシャツとして定着し、サッカーの応援以外の街着としても良く見かけるようになりました。 そんなサッカーユニフォームを集めた本がこちら。 サッカーファンだけでなく、ユニフォームコレクターやファッションとして興味のある人にもおススメです。 チームとしては、メジャーなクラブチームとナショナルチームしか載っていませんが、日本で入手しようと思うならば、これだけで十分でしょう。コレクターにはちょっと不満かもしれませんが。(忘れていましたが、今年のヨーロッパチャンピオンのFCポルトも載っていません。ビッグクラブではないのか?) ただし、まだキリンカップでクラブチームが来日していた頃のユニフォームとか、バッジオ・プラティニ・ジーコといった名選手、中田・小野・カズなど日本人選手のユニフォームが載っているのでプレミアものです。 今年の夏は気に入ったユニフォームを見つけて、街着として着こなしてみるのはいかがでしょうか! ちなみに私はP.58のユニフォームを夏の部屋着として毎年着ています。街に出るには年をとりすぎて。 |
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おかしなお菓子大集合 グループ・コロンブス編 講談社 1143円+税 |
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| 所変われば、お菓子も変わる 昔は京都、今は仙台と足繁く通いつづける私でございますが、よく土産物屋で眼にする【○○地区限定】と銘打たれたお菓子。その土地の名産を原料にブレンドして、独特の味をアピール、地域振興にも一役買っている代物でありますが、一体何種類あるのでしょうか? 私個人は知人が博多土産に持って来た【明太プリッツ】、東北限定・【カール牛タン風味】、同じく東北【雲丹プリッツ】、名古屋限定【八丁味噌プリッツ】を賞味した程度…って、それだけ食べれば充分か(^^;) 日本全国(一部は海外も!)に散らばる【地域限定品】、その数140種オーバーと言うから驚きです。 本書はその全てを網羅、現地には行ってないかもしれませんが、この本を作る為に全種試食した編集者の方は、食べ過ぎで胸焼けを起こしたのでは(笑) このテの品は、ビッグサイズが多く、小袋や独立した小箱に収まっている事が多く、多人数向けの土産物としては最適の一品。 もしも国内の観光旅行に行かれる場合は、本書に一度眼を通してからお出かけを…貴方の向かうあの街には、【面白美味い限定品】が、貴方の来訪を待っています。 今回のオススメ度 ★★★☆☆(本書の中には、【千葉限定ばかうけハローキティ・ピーナッツ風味】なんて商品も紹介…一体、千葉の何処で販売しているのでしょうね?) |
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普遊舎 762円+税 |
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| こんなに沢山、あったのね!? 最近、【健康増進法】とやらのお陰で、すっかり肩身の狭い我ら喫煙家。 駅や路上からは締め出され、飲食店でも禁煙タイム、所によっては全日禁煙…全くもってトホホな状態。一部のマナーレス喫煙者が引き金になって、現在の状況がある訳なのですが、煙草って元々は薬として珍重されていたのをご存知ですか? 16世紀の昔、スペインで出版されたものの本には 新大陸からコロンブスが持ち帰った薬草は、 癌・歯痛など20種以上の病を治し、空腹・渇きを軽減する …と、まるで万能薬みたいな扱いをされていたのだとか。勿論デタラメな話で、実際には短期間感覚が高揚したり麻痺するだけで、症状が改善する訳は無いのはご周知の通り。 先の【健康増進法】によって喫煙場所は限定されたものの、日本は未だ【世界有数の煙草王国】なのですよ、 国内で購入可能な紙巻煙草の銘柄だけで、その数なんと280種。前項で紹介した【地域限定お菓子】の倍の数も銘柄が存在するとは…【サムタイム】→【マルボロ】→【マイルドセブン】→【キャビン】→【ジタン】→【ロスマンズ】→【ラーク】→【ゴールデンバット】→【JPS】→【マルボロ・メンソール】→【セーラム・ライト】→【ラッキーストライク・メンソール】→【キャメル・メンソール】と、各銘柄を渡り歩いた私も知りませんでした。 一寸前に、TVCFから爆発的に売れた、【大人煙草養成講座】なんて本がありましたが、本書はもっと煙草を専門的に捉え、煙草の構造から人体に及ぼす影響、禁煙グッズの紹介に、紙巻以外の煙草の紹介、手巻き煙草・刻み煙草(パイプ)・嗅ぎ煙草の正しい吸い(飲み?)方まで紹介。 【喫煙デビュー】→【禁煙】→【卒煙】迄をまとめて面倒見てくれる、有り難い一冊に仕上がっております。 今回のオススメ度 ★★★★☆(今の銘柄に飽きた方、禁煙を考えている方、煙草の誘惑を完全に断ち切りたい方、全対応!【煙草学】について詳しくなれます) |

≪一冊入魂≫
第30回 『めぐる架空亭』
| 物語の中へ… 小説やマンガ、もしくは映画など、架空の世界の中へ入ってみたいと思ったことはありませんか?自分なら近未来SFの世界に入ってみたいですね。 今回紹介する作品はふとしたきっかけで小説の中に入り込んでしまった青年の話です。そこで起こる様々な出来事は思わず吹き出してしまうものもあれば何だか切なくなってしまうことも…詳しくは本文で… |
| めぐる架空亭 草川為 白泉社 全1巻 390円+税 |
| まずは簡単な作品紹介から。 病弱な小説家の小山笹舟は彼の出身地で2人目の小説家。彼は国語教師の祖父の影響で、同郷の最初の文士・雪村千鳥に憧れて小説家の道を選んだ。雪村も病弱で、29歳の若さでこの世を去ってしまった。 彼の書いた作品は全て不思議な物語。まるで魂まで宿らんばかりのものだった。そして最期に書かれていた作品の行方は知れず、しかも未完だったという… 夏の或る日、笹舟は久し振りに祖父の家を訪れる。生憎家族のものは留守。祖父の部屋で待っていると、小さな箱があることに気付く。開けてみるとその中に原稿が入っていた。そこにはこう書かれていた。 『架空亭』雪村千鳥 読んでみるとやはり未完だった。そしてふと笹舟は目の前に浮かぶ旅館の姿に気付く。引き込まれていく笹舟。気付けばその旅館の前に立っていた。そしてその看板に書かれていたのは『架空亭』の文字だった… そこで待っていたのは留守にしていた祖父、そして旅館の従業員たちでした。女主人の甘喃、料理人の緑青、世話係の九庫。彼らから告げられたのはここに招き入れられた人はひとつの役目を持っているということでした。 それは招かれた人間の生気を吸収してそこで暮らす人たちの食事を作っているということでした。ただその食事のグレードはその本人の生命力に左右されてしまうのです。ですから病弱な笹舟から生まれた食事は茶碗1杯の御飯の上にメザシ1匹だけ(笑)そこでもっと生命力のある人を探してきてほしいといわれる笹舟。そして約束するのです。上客をつかまえてこようと。そしてそのとき未完のままだった原稿に新たな一文が書き込まれていったのでした… |
| 超私的お気に入りエピソード …ひきとめてもいい? P.97〜137 |
| 障子の影から覗き込んでいるひとりの少女。部屋の中には女性の亡骸とひとりの青年。彼は少女と亡骸に向かってこう囁いた。『…姉さん、カノコが来たよ。そんなとこにいないで入っておいで。お別れしないとね』… 笹舟は祖父と一緒に雪村千鳥の姪カノコの通夜に参列していました。雪村研究家である祖父とカノコは親交があり、近々渡そうと思っていたらしい、ひとつの箱を貰い受けます。その箱の中に入っていたもの。それは何と失われていたはずの『架空亭』の構想メモでした。 そこに書かれていたのは『架空亭』は悲恋ものになる予定だったということでした。主人公はあの活発な甘喃、そしてその恋の相手は病を抱えた若い小説家という設定でした。まさに笹舟そのもの。ですが雪村がメモを書いたときに生きているわけはなく、どうやら雪村本人がモデルだったらしいのです。 そしてメモを読み進めていき、ラストがどう書かれることになっていたのかを確認しようとしたとき、笹舟の姿は忽然と消えてしまったのです。 強制的にとりこまれた笹舟の前に立っていたのはひとりの少女。彼女は亡くなったはずのカノコだった。気懸かりだったあのメモから離れることが出来ずに『架空亭』にとりこまれてしまったのだ。設計図でもある構想メモが見つかったために物語が完結に向けて暴走をはじめているのかもしれないと彼女は言う。そう、一番雪村が書きたがっていた結末へ向けて…。 甘喃たちと合流した笹舟。そこでカノコは叔父である雪村のことを語り始めます。彼が報われることのない相手と恋をしていたらしいということ、そしてその相手がカノコの母親であり彼の姉でもある、縞であったということでした。そして縞がなくなり雪村が残されるかたちとなり、病弱だった彼は自分も長くはないと悟り、本当は一緒に死んでしまいたかったと思っていたこと、そして現実的にそれは出来ないということ、そしてその代わりに小説の中だけでも思いを遂げようとしていたことを… 最悪の結末を避けるべく笹舟を逃がそうとする甘喃。だが行けども行けども雲の壁に遮られてしまい逃がすことが出来ない。緑青たちに雲の壁に穴をあけてほしいと頼む彼女だった。だがその手はそれに反して笹舟の着物の袖をぎゅっと握りしめている。無意識に… 『架空亭』の中では異変が起こり始めていた。次々と従業員たちが眠り始めてしまっている。それと同時に現実世界でも異変が始まっていた。原稿がひとりでに書きすすめられているのだ。そして甘喃にも異変が起こり始める。 窓ガラスを叩き割り、帯紐を解き、それを使って笹舟を縛り付ける。そして更に彼の首を絞め始めた。止めるべく叫ぶカノコ。ただ、霊体でしかない彼女では甘喃の凶行を止めることが出来ない。絞められながら笹舟は思う。本当に雪村はこんな結末を望んでいたのだろうか、と。だがもしそうであるならば、それを託したはずの甘喃にはそんな姿は似合わない。 そのとき彼女の目に浮かぶ涙。死にかける笹舟。そのときようやく我を取り戻した甘喃。死を免れた笹舟。燃え出してしまう構想メモ。心中という最悪の結末を免れたのだ。そのときようやく雪村の本当に描きたかった結末に気付くのだった… 何とか最悪の結果を免れたことで成仏してゆくカノコを見送る笹舟と甘喃。笹舟の体を気遣いながらようやく自分の気持ちに気付いた彼女は、彼にこう囁くのでした… 『本当に申しわけない。でもこれでもう恋人役とか関係なくなって、宿も笹舟から移れるだろうし―――…よかったなと見送るべきところなのかもしれん―――が、…ひきとめてもいい?』 それを聞いた笹舟の答えは如何に?それは各自でご確認を。そしてこの時、物語の結末が書き進められていきます。 『ともに逝きたいと想う心はそれでも夢見たのだ。ただ純粋に。悲しい終りへは決して辿りつくことのない縞の姿を。続く、未来を。』 |