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2002年11月
望楼館追想(エドワード・ケアリー) 狂言サイボーグ(野村萬斎)
遥かなイチロー、わが友一朗(義田貴士) 野球すんやでぇ(山森恵子)
わんわん共和国 ピーター・ラビット紀行(新井満・新井紀子)
タイタス・グローン(マーヴィン・ピーク) 船橋の定点撮影(手塚博禮)
超私的まんが道2≪一冊入魂≫
クリオの男(木葉功一) .

恋人たちが手をつなぐというのはよく知られている。ぼくが手袋をしているというのはよく知られている。ぼくが汚れているもの(人間の体などがそうだ)に決して触らないというのはよく知られている。したがって、ぼくは恋人とは絶対に手をつなげないわけだ。だからぼくには恋人がいない。



フランシスはだれも愛さない
望楼館追想

エドワード・ケアリー 古屋美登里 訳

文藝春秋 2571円+税


10月の新刊です。すぐに買って読みました。タイトルもおもしろかったし、それに帯の文面も好感がもてました。ちょっと変わっています。出版社もこういう帯をつくるようになったのか、と思いました。
まず正面が、

もしあなたが小説好きで、
@ひとりでいるのが好き A体育系は苦手
B新しい才能を本気で探している
どれかに当てはまるのならば、保証します。
この本を読まない手はありません。


背の部分にはジョン・ファウルズが褒めているということが書いてあります。ファウルズを知っているひとがどれくらいいるのかわかりませんが、「コレクター」(白水社uブックス)の作家です。昭和堂でも平積みにしたことがありますけれど、男が女子大生を拉致監禁してしまう話でした。主人公はそもそも昆虫のコレクターだったんですけれど、べつのコレクターになっていくんですよね。彼はその女子大生に愛しているというんです。それが女子大生の日記にはこう書かれます。「たった三つの単語。真剣に発音されたそのことば。あなたを愛しています。/それは絶望的なことばだった。彼はそのことばを、≪ぼくは癌の患者です≫とでも言うように発音した。」ひやぁ。「コレクター」の作者が「望楼館追想」を評価するというのは、なるほどなあと後で思いました。

さてさて、まだ帯のつづきです。正面、背ときて、今度は後ろです。実をいうと、これがいちばん驚いた文面だったんですが、

*この本をつくった人間はみな、この小説にとり憑かれてしまいました。
「まぎれもなく私の代表作です」翻訳者・古川美登里
「こんな小説を読んだのははじめてです。アーティストならまちがいなくこの作品にまいってしまう」装画・影山徹
「ものすごい力があります。読む者を巻き込み、この本の中を満たす空気を伝染させてしまうような力が」担当編集者

これから出てくる本がみんなこうなってしまったらしかたがないんですけれど、どうでしょう、これはよい帯じゃないでしょうか? そんなにいうんなら、読もうかなあと思ってしまいますよね。こちらの文面が正面に来てもいいくらいです。

で、とりあえず私もPOPをつけましたが、「この本は帯の文句をそのまま信じていいと思います。」



主人公フランシス・オームの語りで小説は進行していきます。それがどういうトーンかというと、たとえば

最悪なのはエマの肌だった。彼女が初めて偽涙館にやってきたとき、ぼくは彼女がとても恐かった。口のまわりに生えているひげ、臭いもそうだったが、いちばん恐れをなしたのはその肌だった。ぼくは目をつむって彼女の肌を見ないようにした。エマの肌を言い表すのはとても難しい。喩えて言えば、エマの肌はこんなふうなのだ。

オレンジを一個手に取る。その皮をむく。
そのまま真夏の炎天下に数日放っておく。


どうでしょう? 私は吹き出してしまいました。こういう語りをするのが主人公なんです。他人のことをこんなふうに描写する人物です。こういう視線、こういうこだわりをもった人物です。

フランシス・オームの自己紹介も含めた書き出しは

ぼくは白い手袋をはめていた。両親と暮らしていた。でも、小さな子どもではなかった。三十七歳だった。下唇が腫れていた。白い手袋をはめていたが、召使いではなかった。ブラスバンドの奏者でも、ウェイターでも、手品師でもなかった。大事なものを集めた博物館の学芸員だった。白い手袋をはめていたのは、博物館にある986点の展示品を損なってはならなかったからだ。白い手袋をはめていたのは、素手でものに触れてはいけなかったからだ。自分の手を見てはいけなかったからだ。

彼の博物館というのは公共の施設としてのものではなく、彼が自分のコレクションを管理しているだけのものなんです。収集したものを彼は「大事なもの」「愛の品」などと呼んでいます。すべての品物にロット番号がふられています。
なにを彼は収集しているのか? 彼はなんのコレクターなのか? こういうことです。誰か他人が大事にしていたものを彼は拾い、現に誰かが大切にしているものを盗んだりしているんです。秘密の場所に隠したコレクションを見ながら、彼は舌なめずりします。そのせいで彼の下唇は腫れているんです。彼はこういう「学芸員」であるわけです。

彼には「手袋日記」があるんですが、

ベッドの足許には、同じ大きさの木箱が三つ並んでいる。大工に特別に注文して作らせた、縦二十センチ、横三十三センチ、高さ七十六センチの箱だ。この箱には厚さ一・七センチの仕切が二つ入っていて、それで内部が完璧に三等分されている。三つの箱のうちの二つはすでに中身が詰まっている。なかに入っているのはぼくの手袋だ。古くなった使用済みの手袋。箱のそれぞれの仕切には手袋が二百枚入るので、一つの箱に六百枚入っている。いまは三つ目の箱の、三つ目の仕切のところまで来ていた。あと二十三組使ったら三つ目の箱は一杯になる。どの手袋の間にもトレーシングペーパーが挟まっていて、五センチ四方の小さな画用紙に、手袋の使い始めと使い終わりの日付を記してある。それがぼくの手袋日記だ。画用紙に記された日付と、番号を振ってベッドの下に順番に並べてあるノートを見れば、手袋が使えなくなった原因がすぐにわかる。ぼくは、ほんのわずかでも汚れた手袋をはめるのを自分に禁じていた。ぼくの両手はいつでも純白でなければならない。

どうです?

大人になって、ぼくは町の蝋人形館に働き口を求めた。これは人気の高い職で、蝋人形館は人気のある場所だった。面接試験は、蝋人形に混じって微動だにせず立ちつづけるというもので、採用者一人のところに五人がおしかけた。不動でいることが仕事なのだ。不動の芸。五人のうち、真の不動性を示せる者がひとりもいなければ、今回はだれも採用されず、翌年までこの職は空きとなる、と言われた。人間そっくりの蝋人形と、蝋人形そっくりの人間を同時に展示しているというのがこの蝋人形館の目玉だった。入館者は展示物をしげしげと見ては、どれが蝋の作り物でどれが生身の人間かを当てて楽しんだ。だが、うまく当たらない方が多かった。人形そっくりの人間は、いわば不動性を会得したエキスパートだったからだ。

どうです?

ちょっとカフカ「断食芸人」を思い出しました。主人公フランシスは彼が自分の本質とみなしているものを職業に選んだわけですね。

彼は望楼館の住人たちと引きこもりの生活をしています。誰も積極的に他人に関わろうとしません。他人と関わることがすぐに干渉とみなされるような生活です。みなが自分の小さな世界をもち、その平安をかき乱されるのを恐れ、秘密を抱えています。みなが変化を恐れています。
ところが、そこへ

新しい住人がやってくることを知ったのは、玄関ホールの告知板に小さなメモ用紙が貼られたからだった。

18号室 引っ越しあり。一週間後。

このそっけない告知を見たぼくら住人は、恐怖におののいた。

こうして新しい住人が望楼館に変化を持ち込むことになるんです。




この作品全体の印象になりますが、なにか独特の表情を刻み込まれた人形の劇を見ているような感じがします。各章の扉に作者自身の手になる登場人物の肖像画が収められているんですが、まさにこれらの顔形の人形が立ちまわっているような気がしてくるんです。

そうして、ここまで紹介したところででもおわかりでしょう(当然といえば当然ですが)、この作品は愛についての物語です。
それはたとえばこんなふうです。

……ぼくは彼女の部屋に行って、持ち物を動かした。煉瓦を入口に置いて、彼女がそれに蹴躓いて転び、怪我をするのを見た。彼女を町へ連れ出してそのまま置き去りにして、彼女が大声でぼくの名前を呼ぶのを聞いた。そして彼女が必死になって人々に助けを求めるのを見ていた。彼女が家にたどり着くまでずっと後ろからついていった。彼女は曲がり角にくると、どうしていいかわからずに立ちつくし、望楼館の前を行き交う車の音を聞いていた。そこに一時間ほど立って、通り過ぎる人に声をかけ、道路を渡らせてほしいと頼んでいた。

もちろん、これは愛の物語です。愛の物語です、もちろん。

いかがでしょうか? おすすめします。














わたしにとっての教養とは、
「生きていくために身につけるべき機能」のことである。
狂言師が舞台をつとめるための教養は「型」である。
その「型」を個性・経験でアレンジしながら使っていくことで表現になる。

これが狂言の一つの道筋である。
狂言サイボーグ

野村萬斎

日本経済新聞社 1905円+税
巨人の松井選手がFA宣言をし、メジャーリーグを目指す意志をしめしました。「やっとこの時が来たか。」と思い、「ぜひ頑張ってほしい。」と思う。活躍することへの期待はもちろんですが、それ以上に、かつてイチロー選手に対して思ったように、松井選手が心からベースボールを楽しんでもらいたいと望むのです。
サッカーでも世界へ飛び立つ選手が増えてきました。どちらも身体能力や運動センスがそれまでの日本人からすると飛躍的に高くなり、また、それに磨きをかける環境がこの国に整いつつある結果なんでしょう。スポーツ界はこれでいい。このまま、ますます磨きをかけて、さらなる高みを目指して、私たちに夢を与えていただきたい。

ところで、エンターテイメントの世界はどうなんでしょう。あまり詳しくはないんですけど、音楽では、BOOM BOOM SATERITESとか坂本“教授”龍一とか絶対数は少ないものの活躍されている方もいるんですよね。では、映画なんかは?あー北野たけし監督がいますね。だけど私がいて欲しいなーと思うのは、世界に通用する役者がもっと日本から出て欲しいんです。そういう人、今いないですよね。いなイッス。海外で製作されて、なおかつ興行的に成功して、役者としても名が知られたのって「ブラックレイン」の松田勇作と高倉健ぐらいじゃないですか?いや、別に日本で作られて、海外でも大当たりしたのでもいいんですよ。たとえば、「七人の侍」とかね。でも、いま彼らに匹敵する、追い越せる俳優・女優っているんでしょうか?

個人的にはですね、「この人いいんじゃないかな〜」って思うんですよ、野村萬斎。なんか、すごく存在感があるんですよね。正直、狂言なんか見たことないし、敷居高そうだし、だいたいにおいて、退屈そうで、じっとしていることが苦手な私にっとては、はなっから「興味の対象外」。それでもこのひとの存在感だけは、
「別格」
として目に映るんです。

この本はその野村萬斎の書いたエッセイ集&彼の主催する「ござるの座」のパンフレットに掲載された文章をまとめたもの。特にエッセイの部分、「狂言と……」というかたちですべて書かれているんですが、これが面白いです。
読んでみると、なるほど、これが彼の存在感の秘密か!と感じるところがたくさんありました。目だとか手の動きとか…etc。でも、やっぱり背中ですね、背中。それと歩き方。男子たるもの背はピンと張らなきゃいかんね、と感じました。

ところで、一度 洋画に出演してみる気はないですかね。ほんと成功するとおもうんだけどな。














遥かなイチロー、
わが友一朗


義田貴士

KKベストセラーズ 1500円+税

野球すんやでぇ
大リーガー大家友和の挑戦

山森恵子

KKベストセラーズ 1400円+税
MLBは、ラリーモンキー・フィーバーでエンゼルスがワールドシリーズを初めて制し、こちら日本のプロ野球は、あっけなく巨人が4連勝で日本一になった。今シーズンも残すは、2年に1度の日米野球のみとなってしまった。
MLBのメンバーはスト問題が長引いたせいか、今年のオールスター出場選手が少なめだが、それでも素晴らしい選手が大勢やってくる。B.ボンズ、B.ウィリアムズ、J.ジオンビー、T.ハンター、E.チャベス、R.アロマー、B.コローン、M.ビュラー、E.ガンエ、と名前を挙げていったらきりがないし、本の紹介もしなくてはならないので、このへんで終わりしておくが──、忘れてはならない、イチローと大家もメジャーリーガーとして来日する。

そんな2人について書かれた本がそれぞれに発売された。

イチロー選手については、これまでにもたくさん本が出たが、今度のは、(テレビ朝日のイチローへのインタビューで見た人もいると思うが)スポーツジャーナリスト義田貴士によるもの。彼が、これまでのイチロー本とは違う角度から、プレーだけでなく、友人として日常にまで入りこんで書いているから、ファンには必読だ。

そして大家選手の本は──たぶん初めて出版されたと思う──、彼の子ども時代から現在までを、家族や、その時々のまわりの人たちの声から取材している。他の日本人メジャーリーガーとちがって日本での実績がほとんどなかった大家──そのためにあまりメディアで紹介されることもなかった大家。彼がどうやって現在の地位まで登りつめたかよく分かる本だ。これを読めば、きっと大家ファンになる!

さあ日米野球が始まる前にこの2冊を読んで、スタジアムに行ってメジャーリーガー(彼らは観光気分で本気ではないが?)の野球を楽しもう!
それから来年は(も?)アメリカに行ってイチローや大家を応援しよう!










わんわん共和国


扶桑社 680円+税
また新しく、犬の雑誌が創刊されました。その名もわんわん共和国。この本は今までの犬の雑誌とは多少違いがあります。実際にわんわん共和国という場所が存在していて、恵まれない犬、猫を救うべく活動をしているところです。第一回目の内容は・・・ティーカッププードルの紹介・有名人のわんちゃん・しつけのしかた等盛りだくさんですが、P178から10ページにわたっての文章を特に読んでほしいです。ペットブームといわれるこの世の中ですが、その反面人間の手で命を絶たれている犬や猫、犬猫の収容所、保健所での犬と猫の実情。犬猫を飼おうとしているのであれば決して知らないでは済まされない事実が綴られています。

P187 ポエム  失われる罪なき命たちへの鎮魂歌

初めてあなたと会ったあの日。
あなたは私を抱き上げ、頬ずりをしながら叫びましたね。
「なんて、可愛いの。あたしの天使!」
あなたの優しいまなざし、呼びかけの声、暖かい手。
私は幸せだった。
そして2年・・・。いま、私の横にあなたはいない。
いつの頃からか、あなたの心は私から離れていった。
ときには私を怒鳴り、叩き、甘えても振り向いてもくれない。
私は知っていました。
あなたは仕事に追われ、悩み、疲れていたのですね。
私は待つことに苛立ち、寂しくて
あなたのいない部屋を汚したりしました。
少し意地を張ってしまったこともありました。
今、わたしは冷たい鉄格子のなかにいます。
なんとなく、からだが重くなってきました。
もう、あなたには会えないことも
なんとなく、わかってきました。
でも、決して恨んでなんかはいない。
私が嫌いになっただなんて思ったことさえない。
私は忘れない。幸せだったあの頃の思い出がある限り・・・。

どうかみなさん、この本を手にとり、知って下さい。














ピーター・ラビット紀行

新井満・新井紀子

河出書房新社 1600円+税
        行ってみたいな…他所の国…

何年前だったか忘れてしまいましたが、NHKの特番で同様の番組があり、初めてイギリスの湖水地方の様子を目にしたのですが…うっかりビデオ録画を忘れていて、「もう現地に行く方法しかあの風景を目にする事は出来ないのだろうか…」と諦めていたのですが…

            が!

河出書房新社サマ、有難うございますぅ〜m(_ _)m
不肖原口は今、モ〜レツに感動しているッッ!!

透き通った水を静かに湛える湖、ひなびたコテージに草生した古城、青々と茂るワーズ・ワースの森に抱かれたソーリー村のヒルトップ農場…この土地でビアトリクス・ポター女史の手によって、一羽の兎が産声を上げたのはもう100年も前の事…。

皆さんご存知の「ピーター・ラビット」の原点は、正にこのウィンダミア地方にあるのです!

100年を経た現在でも、ポターの遺志を引き継いだナショナル・トラスト運動によって守られたこの美しい理想郷を、芥川賞作家の新井満氏とその奥様で随筆家の紀子さんがご案内します(^_^)/~~ )))

  今回のオススメ度 ★★★★☆(現在でもヒルトップ農場を始めとするソーリー村の近隣には、多くの野兎達が静かに暮らしているとの事。本書を携え、「ピーター・ラビットの子孫たち」に逢いに行ってみませんか?)














タイタス・グローン

マーヴィン・ピーク 浅羽莢子 訳

創元推理文庫 960円+税
いつとは知れぬ時の、いずことも知れぬ地にその城はあった。
重苦しく巨大な石の集積物、奇矯な人間たちが蠢く石の迷宮ゴーメンガースト。

七十六代の永きにわたって城を治めるはグローン伯爵家。
笠貝のごとくびっしりと城を取り巻くは<外>の民のあばらやの群れ。
これが世界の総てであった。

そして今、七十七代城主が呱々の産声を上げた。
菫色の瞳を持ったこの男児の名前はタイタス……昏く異形の叙事詩がまさに始まろうとしている!

と言う前書きから始まる、本書を含めた三部構成の作品で、トールキンの「指輪物語」ムアコックの「エターナル・チャンピオン」等と並び、現代ファンタジーの礎となった作品です。

著者のピークは中国で生まれたイギリス人で、お医者様の家系。普通に暮らしていたらこんな作品は書けなかったでしょうが、幼少期の11年間の中国での生活の後、母国イギリスに戻り青年期を迎えた事も、少なからず本シリーズの完成に貢献しているのだと思います。

今回の増刷に際して、オビのキャッチを田中芳樹先生が担当し、絶賛していますが、本書の後書きは荒俣宏先生の手によるもの。こちらだけでもかなり楽しめると思います。

出来る事なら、これを読破出来たら「エルリック・サーガ」が読みたいなぁ〜…早川書房さん、復刻版出しませんか?(笑)

  今回のオススメ度 ★★★☆☆(日本におけるファンタジーの礎となった作品で、ハリーポッターや指輪物語に比べると、話の難しさはぐっと高めです。)














船橋の定点撮影
同じ場所がこう変わった

手塚博禮

自費出版です。 1143円+税
    裏声で、『時代』を歌え!

「そんな〜、時代も〜あぁ〜ったねとぉ〜♪」と、薬師丸某の歌に乗せ、日本各地の懐かしの風景と現在の現地の様子を紹介するコーナーが、関口宏さん司会の「TVあっとらんだむ」と言う番組内に、かつて存在致しました(現在は番組自体が終了)が、本書はその船橋市版といった所でしょうか?

写真撮影と、それに付随するコメントを執筆なさっている手塚さんは、長年千葉県内で教員生活をなさっていた方で、船橋市はもとより、習志野市では津田沼小学校教頭実籾小学校校長も勤められているので、地元の方ではご存知の人もいる筈。

11歳で千葉に引越ししてきた原口は、文献とお話でしか昔の千葉を知りませんが、こう言う視覚的な資料が有る事は、判りやすく「昔の千葉」の様子を知る事が出来て貴重な本だと思います。

今年で御歳84になられるそうですが、次回は頑張って「習志野の定点観測」を出して下さい…期待してます!

  今回のオススメ度 ★★★★☆(本書は購入の価値があり、郷土史愛好家の方にはお勧め致します、ハイ!)






≪一冊入魂≫

第11回 『クリオの男』

ジンクスって信じます?

 左足から必ずズボンをはくとかいったジンクスってたくさんありますよね。たぶん100人いれば100個のジンクスがあると思います。よく『呪いの〜』だとか『幸運を呼ぶ〜』という物にまつわるジンクスも数知れず。

 今回とりあげた『クリオの男』はそういった、物にまつわる悪いジンクスを取り除く男の話です。その取り除き方に独特の手法をとる主人公矢堂一彦。こんな人が近くにいればきっと便利!(笑)けれど彼の真意は深いところにあります・・・

さあ、その謎を解き明かしましょう!


クリオの男

木葉功一

講談社 全1巻 743円+税
 まずは簡単な作品紹介から。

 『呪いの〜』とか『不幸の〜』、『血塗られた〜』など、物にまつわるジンクスは数多く存在する。そのジンクスの謎を解き明かす男、矢堂一彦。

 彼は骨董品や美術品などの物の中に蓄積している過去の記憶や因縁といった情報世界に自分の意識をまるで海に潜るかのように潜り込ませることが出来る能力者。そのため彼は『クリオダイバー』とも呼ばれている。

 自分の意識を潜り込ませるため、その物のもつ情報世界に取り込まれてしまう危険を顧みず潜り続ける真意とはいったい? だがそんな彼への依頼は尽きることがなかった・・・


 主人公矢堂一彦の能力は生まれ持った能力。幼いころはその能力ゆえに常に手袋をし、素手で物を触ることが出来ず、そのために学校の友達とも馴染めず、毎日沈んだ表情で生活していました。そんな彼がクリオダイバーとして生きていこうというきっかけになったのは、海で亡くなり、未だ海に沈んだままの海洋カメラマンだった父親の亡骸に触れたことでした。父親に触れたとき、『死』の記憶に取り込まれそうになりますが、それを助けてくれたのがダイバー姿の父親。そのとき父親は次のように言いました。

 『人間のいないところには何もない。恐ろしい記憶に満ちていてもお前の生きる世界だよ。帰りなさい。がんばれ一彦!』

 この後初めて彼は他人の手を素手で握りしめることになります。そんな彼がダイバーとして活動を始めたころに悲劇が起こります。その件についてはお気に入りのコーナーで!
超私的お気に入りシーン
アフリカのビッグ
ハンティング時代の拳銃

P.350〜374
 クリオダイバーとして活動を始めた一彦。記憶の恐怖から解放された彼は次第にダイブをゲーム感覚で行うようになる。当時彼のマネージメント兼恋人の紅は彼をたしなめるが、一彦は一向に聞く耳をもたない。

 そんなとき、とある依頼が舞い込んでくる。その依頼は一丁の拳銃。アフリカビッグハンティング時代のもの。依頼者は一彦と同業の黒人ダイバー。彼の手には負えない代物で、一彦の能力を聞きつけての依頼。早速いつものようにゲーム感覚で潜りはじめる一彦。だがこれが不幸の始まりだった・・・

 拳銃の記憶の最深部に辿り着いた一彦。だがそこに潜んでいた狂気に彼は取り込まれそうになる。異変に気づく紅。実は依頼者のダイバーは己の欲望のために銃のジンクスを解いてしまうものを抹殺しようとしていたのだった。

 完全に取り込まれてしまった一彦。紅に拳銃を向けて引き金を引く。その瞬間紅は信じられない行動に出る。黒人ダイバーを使って一彦が囚われた記憶へダイブしてしまう。そこには多くの人間や動物の死体に囲まれてジンクスと融合した一彦の姿があった。

 徐々に一彦に近づいていく紅。弾き飛ばされる右腕。倒れこむ紅。狂乱した一彦の隙を突き紅は一彦を掴む。そして彼の意識を引き剥がす。そしてそっと囁く。

 『さよなら一彦。ずっとここで見守ってるわ―』

 意識を取り戻す一彦。事情が全くつかめない彼の目前で倒れこんでいる紅。驚き彼女を抱き起こそうとした時、彼は彼女の記憶にダイブしてしまう・・・

 その記憶とは初めて紅と会った時の記憶。美術品の真贋の確認の依頼を受けた彼は依頼者たちに詐欺師扱いされ気が立っていた。そこに現れたのが当時その美術館のキュレーターだった紅。

 彼に近づき紅は言う。『記憶に潜るなんて怖くない?怖いんでしょう?どうして潜るの』

 その言葉に腹を立て強がってみせる一彦。それを見抜いてか紅が続ける。

 『あなたひとりで大丈夫?』

 怒鳴りつける一彦。紅は退室もせず、一彦のダイブする姿をそっと見つめている。そしてふと思う。

 ≪同じだ。昔の私と。でもこの人のほうが無器用だな。能力を受け入れて向き合って生きるしかないと決めてる。怖くて苦しくて仕方ないのに逃げようとしない≫

 そして再び彼に近づきそっと囁く。『ねえ大丈夫?ひとりで大丈夫?』

 彼女がいつも一彦と一緒に潜っていたことに初めて気づく。同時に彼はかけがえのない人を失ってしまったことに気付いたのだった・・・

 このあと場面は現在の植物状態の紅が入院している病院に戻ります。医師に今まで彼女の命をつないでくれたことに感謝し、一彦はあの因縁の拳銃に取り込まれた黒人ダイバーと対峙します。そこで彼のとった行動とは・・・この先は実際に皆さんが読んで確かめてください。実はこのエピソード、本作の一番最後のもの。これ以前は数々のジンクスの謎を解いていくエピソードが綴られています。そちらの方も必読です。興味のある方は是非読んでみてください。全402ページ!特厚で読み応えもバッチシです!

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